「怒りの感情を悪いものではなくて、愛しいものだと思えるようになりました。怒りがあるからこそ、私たちは考えて動き出すことができるんです」
とある瞑想勉強会でこう発言をした女性がいました。
筆者はヨガ講師としても活動しており、季節のヨガや瞑想の勉強会によく参加しています。この日は、春の瞑想勉強会で、テーマは怒りの感情。東洋医学では「五臓は感情を宿す」と考えられています。
春は肝臓を司る季節であり、肝臓と関わりがあるのが「怒り」。瞑想勉強会では、参加者それぞれが「怒り」に対しての考えを自由にシェアするところから始まります。
彼女は続けました。
「春は植物が芽吹くはじまりの季節でワクワク、ソワソワというイメージはあるけれど、怒りという感情はピンと来なくて、なぜ春に怒りなのだろうかと考えていました。はじまりと怒りの関係に想いを馳せると、私自身の経験にも心当たりがいくつかありました]
「また障害の歴史の中で、新しい権利や保障が認められた背景には、必ず障害当事者や当事者の家族の怒りがありました。怒りの感情が世の中をより良い方向へ動かしてきたんです。怒りって、ほんとうは大きな力を秘めた愛おしい感情だと思えるようになりました」
彼女こそが今回ご紹介するマインドフルネス瞑想講師の政木真理子さん(以下、真理子さん)です。
真理子さんは約20年、病院で音楽療法士というキャリアを歩んできました。音楽療法士とは、医療や福祉の現場で音楽の持つ機能を使って人の心身の状態の予防、回復、維持を図る音楽の専門家です。
また発達障害がある中学生、小学生の男児2人の母親であり、発達障害等の子を持つ親の会を仲間と主催しています。
昨年2023年に真理子さんに新たに加わった肩書きが、マインドフルネス瞑想講師。
近年は占星術やスピリチュアル界隈では「風の時代」と言われています。風の持つ要素は、知性やコミュニケーション、自由や革新。彼女はまさに時代の追い風に乗っている人。
真理子さんのSTORYを読むことで、今の時代を生きぬくヒントが得られるかも知れません。ぜひ最後までお読みください。
政木 真理子(Masaki Mariko)
マインドフルネス瞑想講師 / 音楽療法士 / 公認心理師
音楽療法士として約20年、心に寄り添い障害受容を支援。発達障害児2人の子育て経験から、発達障害児等の親の会を主催する。2024年より悩めるお母さんに向けて、マインドフルネスを伝える活動をオンライン中心に開始。
「かわいそうな子」と言われて育った少女
真理子さんは、1981年、兵庫県高砂市に生まれた。両親と祖父母、祖母の兄、妹2人のにぎやかな8人家族の中で育つ。ごっこ遊びやメルヘンな物語、お姫様が好きで、キラキラしたものや、ふわふわしたものに憧れる夢みがちな子どもだったと言う。
幼少期に腎臓の病気を患い、入院と制限のある生活を経験した。4〜5歳の時は通っていた保育園を退園し、一時自宅療養をしていた。当時の記憶を振り返る。
「薬の副作用で、ムーンフェイスと言って顔がパンパンになっていたことを覚えています。ショックでしたね。よく祖母の友人が家にお茶を飲みに来ていました。隣の部屋から『かわいそうな子やね』と祖母たちのヒソヒソ声が聞こえてきたことも忘れられないですね」
小学校時代に病気は2回再発した。3年生までプールの授業は受けることができなかった。
成長するにつれ「かわいそうな子」という言葉が、真理子さんの頭の中で反芻する。友達と話していても、話題にあがった行事に参加していないことに気づき、孤独とさびしさを募らせた。
その後、病気は15歳に完治する。完治はしたが、「腎臓は妊娠とも関係があるから、注意しておいてね」と医師に言われた。「もしかして、私は将来子どもを産めないのかも知れない」という不安感が少女に影を落とす。
「中学、高校の頃は、『私って、かわいそうな子やったんや!』って葛藤がありました。だからなのか、当時は悲しみや怒りを、ポエムみたいにノートに書いてましたね」
誰にもわかってもらえない行き場のない感情をノートに書き出すことが、自分を保つ方法だった。自分の考えや感情を言葉にしたり書き出したりすることを、心理学では「外在化」と言う。
書くことは、まさに思考や感情を外在化させることで、自分の心の状態を客観視し心を落ち着かせる方法のひとつだ。
生きる希望を与えてくれた音楽
真理子さんは、中学校で吹奏楽部に入り、クラリネットに出会う。振り返れば、彼女の家庭環境には音楽が溢れていた。クラシック全集を持っていた祖父、音楽に合わせてチークダンスを踊る父。音楽を愛する家の中心には大きなステレオが存在感をたっぷりに構えていた。
幼少期の療養時もカセットテープで音楽を聴いて、楽しんでいた。闘病経験を振り返り葛藤し、幸せに生きていく自信も、自分自身に対する信頼感も持てなかった少女。音楽の世界は、傷ついた少女をおおらかに包んでくれた。音楽の前ではみんなフラットで、腎臓の病気は関係なかった。
吹奏楽やオーケストラは、多くの楽器で1つの曲を作り上げていく。メンバー全員で息を合わせ、“今、ここ”に意識を集中しなければ良い演奏は生まれない。
彼女は一気にのめり込んでいく。音楽の道を極めていきたいと考え、中学の終わりから音楽大学の受験対策を始めた。
教師だった母親の影響もあり、音楽の先生という目標を抱いた。高校生の時には週に3回、音楽大学受験のためのレッスン通いをし、市の吹奏楽団にも所属した。音楽大学に無事合格してからは、さらに音楽漬けの毎日。
他人から見るとストイックな生活だが、彼女はこんな風に当時を振り返る。
「頑張っているという感覚はなくて、単純に音楽が好きだった。ほんとうに楽しくて仕方がなかった」
音楽を通じて、“今、ここ”に集中することを積み重ね、いつしか真理子さんの中で過去の病気に対する捉え方にも変化があったと言う。
「だんだん病気だった経験を糧にしていきたい!と思えるようになったんです。この経験があるからこそ、できることがあるはずや!と考えるようになりました」
気持ちが変化していく中、真理子さんの将来に影響を与える出来事が起こる。
「教職課程の一環で5日間、介護施設に行きました。その中で、音大生だからとレクリエーションのひとつとして施設利用者さんへ向けて演奏をしました。演奏すると高齢者の方の顔色が明るくなり、とても喜んでくれました」
「音楽は、人の体や心にいい影響を与えることを改めて実感しました。授業の科目でも音楽療法にはもともと興味があり、音楽の先生や演奏家ではなく、音楽療法士になろうと心が決まった経験でした。音楽療法士は、私の病気だった経験も活かせると思いましたね」
音楽は、彼女の未来への道すじを光で照らしてくれた。
音楽で患者さんの心に寄り添う
真理子さんは音楽療法士として仕事を始め、以来20年に渡り続けている。
筆者は彼女に出会うまで音楽療法士という職業を知らなかった。医療関係の仕事に就いていなければ、あまり耳馴染みがないのが実情ではないだろうか。
彼女は脳血管疾患の患者さんを中心に、音楽で回復期のリハビリテーション(以下、リハビリ)に携わっている。
彼女の病院の音楽療法では心理学的なアプローチを重視しており、カウンセリングにも力を入れているそうだ。患者さんは毎日2~3時間のリハビリの時間があり、理学療法士や作業療法士、言語聴覚士と身体や認知機能のリハビリを受ける。それに加えて音楽療法や心理療法で心のケアを行うという位置づけだ。音楽療法では、患者さんの生活歴にあった音楽を使う。
身体を使ったリハビリは安易に想像できるが、音楽を使うとはどういうことなのだろうか。
「どんな人でも音楽は親しみやすい文化なんです。『音楽に興味ないです』という患者さんでも踏み込んで、話を聞いていくと『そう言えば学生時代にこんな音楽聴いていた!』など何かしらの形で音楽に触れているんです」
「人間が病気を治す時に、たいていは文化にふれることは二の次、三の次になります。でも、じっくりその病気と向き合おうと思ったら、これまでの人生の中でどのような文化を貯金してきたかが鍵になります」
「その文化は、苦しい難局を乗り越える下支えになるんです。生命活動は維持できたとしても、後遺症が残ることもよくあります。これまでの生き方からすると、受け入れがたいものと向き合って生きていかなければならない時、音楽が前に踏み出す力を引き出してくれることがあるんです」
彼女は患者さんに「かたく考えなくていいから、遊ぶ時間だと思って来てください」と伝えていると言う。
音楽療法士としてのやりがいを次のように語る。
「患者さんがそれまで囚われていたことから視点が変わる瞬間に立ち会えた時は、やはり大きな喜びです。『病気になって何もできなくて娘に迷惑ばかりかけることになる』と悲観的になっていた患者さんが、時間をかけて対話や音楽で触れ合う中で『私が笑っていることが娘のためになると思う』と言ってくれたりするんですよね」
音楽は真理子さんの人生を支えてくれたように、患者さんの心にもポジティブなリズムを与えた。そのガイド役を務めることは天職だった。
苦しい時は勉強するしかない、人生第2章の幕開け
真理子さんの人生を大きく動かした1つ目の存在は音楽。2つ目は子どもたちだ。
彼女は結婚をし、2人の男の子に恵まれた。3才差の男兄弟は、手に負えないと感じることもあったが、ママ友に話すとみんな口を揃えて「うちもやで!」という言葉が返ってきた。少しの違和感を覚えるが、「男の子ってこんなものなのかも」と乗り切ってきた。
現在、真理子さんの息子は2人とも発達障害の診断を受けている。そこにたどり着くには、それなりに時間を要した。
「長男は小学校に入ると、漢字が全く書けなかったんです。学校の先生は『そのうち書けるようになりますよ』と言いました。本人は一生懸命取り組んでいましたが、やっぱり書けるようにならなくて、ずっと何かがおかしいって思ってました」
「音楽療法士の仕事で、脳や子どもの発達についてそれなりの知識は持っていました。でも、我が子のこととなると、発達障害と結びつかなくて……。そうであって欲しくないという想いが根底にあったのかも知れません」
長男が小学3年生の時に、「発達障害かも知れない」という考えに至った。その後、4年生で診断が下りる。その時の心境を次のように語った。
「職業上、障害は身近なもので、診断を聞いた時に息子の障害を受け入れられない感覚はありませんでした。むしろ原因がわかって、『なんや、そう言うことか』って思いました。原因がわかれば、調べて対処できますからね」
その日から、真理子さんはADHD(注意欠如多動症)やASD(自閉スペクトラム症)、LD(学習障害)、その周辺知識をものすごいスピードで学んでいく。
彼女は医療の現場で何度も患者さんの障害と向き合い、経験していた。それでも、分野が違う子どもへの対応は困難を極めた。ここから親子でトライ&エラーの繰り返しの日々が始まった。
発達障害児の母は戦場の兵士である
長男のことで「何かがおかしい」と模索していたトンネルを抜けたのも束の間、今度は次男の課題が浮上してくる。
次男が小学校に入学すると、友達とのトラブルが頻発した。次男は衝動性が高く、毎日のように癇癪を起こした。長男とはまた違った特性である。次男も診断を受け、真理子さんは発達障害児2人の母となった。
真理子さんは当時のことを、Instagramで「仕事から家に帰れば、戦場だった」と表現している。
長男の学習のサポートに、次男の起こすトラブルの対応。癇癪を爆発させた次男が、家の玄関を飛び出して、マンションの階段の踊り場から身を乗り出すこともあったと言う。
真理子さんが知識をつけ、長男、次男それぞれの取り扱い説明書を探っている中、夫が癇癪を起こした次男に火に油を注ぐような言動をすることもあった。
真理子さんの夫は子どもたちに「障害」という言葉を使うことは決してなかったと言う。それは、障害を認めたくない姿勢の表れなのかもしれない。
しかし、受け入れがたい現実だったとしても、まずは受容しなければ歩み寄ることはできない。子どもの発達障害への対応をめぐり、何度も夫と衝突し、話し合いを重ねた。
彼女は、学校の先生とのやり取りにも多くのエネルギーと時間を使った。
子どもの発達上の特性を学校側に伝えていたが、宿題に「ていねいに書こう!ファイト!」と先生から赤字でコメントが書かれていたことがあった。読み書きに困難さがある子にとって、これは、足がうまく動かせない人に「速く走ろう!ファイト!」と言っているのとそう変わらないと真理子さんは語る。
先生は教育のプロであっても、発達支援のプロではない厳しい現実を目の当たりにする。こうあってほしいという願いとままならない現実のギャップに落胆し、日々もがいていた。
彼女は問題を解決するためにさらに知識で武装していく。睡眠時間を削り、書籍や論文、文部科学省の指針や学習指導要領、専門家の講演会や、ネット上のコラム、障害当事者や当事者の家族のSNSまで、あらゆる情報に手を伸ばした。
真理子さんは子どもたちが生きる世界が少しでも生きやすくなるように願い、心血を注ぎ、走り続けた。
「母は強し」と言うけれど、母親だって人間だ。摩耗しすぎたら、プツンと糸は切れる。
「一番に理解してもらいたいと思う夫が子どもの発達障害への対応に理解を示してくれない時、わかってもらえないことがショックで、衝動的な思いに駆られることがありました。感情の整理ができなくなくて、夜中にふとすべてを終わらせたい気持ちが湧くことがありましたね」
実際に行動に移すことはなかったが、この頃、真理子さんはギリギリの精神状態で常に緊張感が高く、交感神経が優位だったと振り返る。
後編では真理子さんの心を救ってくれたマインドフルネスとの出会い、マインドフルネスの実践によってより自分を活かして生きられるようになったこと、発達障害児等の親の会の立ち上げやマインドフルネス講師の活動を始めるまでのことを伺います。後編もどうぞお楽しみください。
政木 真理子(Masaki Mariko)
マインドフルネス瞑想講師 / 音楽療法士 / 公認心理師
音楽療法士として約20年、心に寄り添い障害受容を支援。発達障害児2人の子育て経験から、発達障害児等の親の会を主催する。2024年より悩めるお母さんに向けて、マインドフルネスを伝える活動をオンライン中心に開始。
【Information】Instagram / LINE公式 / note
オンラインでの真理子さんのマインドフルネスのレッスン情報などはこちら
\真理子さんが運営する親の会も随時参加者募集中!まずはInstagramをチェック!/
≪読み書き困難について学ぶ会 ステラ≫ 読み書き困難のある子もそうでない子も、ICTを活用することで全ての子どもたちが自分にあった「学びのカタチ」を選択できる社会へ!をコンセプトに、ZooMでの交流会や、大阪府で専門家の講演会などを開催→ Instagram
≪発達が気になる子どもの親の会 ルポ ~Repos やすらぎ~≫ おしゃべりしながらプラスワンの知識を学べます!大阪府茨木市で対面で毎月開催中!→ Instagram
ここまでお読みいただきまして、ありがとうございました。(執筆者:江川ともよ)
\ご縁を繋ぐきっかけに/
あなたの魅力を伝え、想いを大切に届けるインタビューライティング
監査法人・コンサルティングファームのシェアードサービス会社の人事など会社員経験12年を経て、フリーのライターへ。1000件以上の対話経験を活かし、インタビューライターの活動を開始。
ヨガ講師、2児の母としての顔も持つ。
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