私たちの生涯で最もよく聞き、話し、書き、そして目にする言葉は何だと思いますか?
それは、おそらく自分の名前ではないでしょうか。
名前は私たちのアイデンティティを構成する重要なピースの1つ。
人に何度も呼ばれ、自らの手を動かして書いた名前の影響を、私たちは受けているように思います。
「人を結び、人に結ばれる子になるように」という名前の由来を持つ女性がいます。今回ご紹介する地域の縁結びをするPRプランナーとして活躍する西楽結さんです。
「名は体を表す」と言いますが、彼女の人生のテーマは「結ぶ」こと。
彼女が結び目の先に思い描くのは、誇れる地元で生き生きと働く人々、そして小さくても個性を輝かせ、賑わうまちの姿だ。
その未来に向かって一緒に道を切り拓いてくれる人が結さんです。
結さんのSTORY、ぜひ最後までお読みください。
西楽 結(Nishiraku Yui)
PRプランナー / MUSUBI LAB.代表
市役所での広報部門マネージャーなどを経て、2023年にPRプランナーとして独立。関西・北摂エリアを中心に、主に地方企業に向けたPR・ブランディングのコンサルティング・伴走支援を行う。2024年からひょうご産業活性化センターの経営専門家としても活動中。
地域の縁結びで、「地元が好き!」な人を増やしたい!
西楽結さん(以下、結さん)は地域で活躍する個人の起業家や中小規模事業の経営者に伴走するPRプランナーだ。主に兵庫県、大阪府の北摂エリアと呼ばれる地域の事業者や団体を支援している。
PRプランナーとは、広報活動の計画から実務遂行までを担う、広報・PRの専門家だ。PRプランナー資格の認定を受けるための検定試験は3次試験まであり、その合格率は2次試験合格者かつ実務経験3年以上という条件付きで10〜30%代という難関資格である。
日本国内に弁護士が約4万2000人いるのに対し、PRプランナーは約2000人だ。その多くが、名の知れた大企業で勤務する広報担当者である。
「私のように地域で活動しているPRプランナーは珍しいかも知れません。PRプランナーはコンサルタント業の一種ですが、事務所でイスに座ってクライアントの相談に乗るのではなく、私は自分から地域のあちこちへ出向いて話を聴き、地域を支える事業者さんとともにプロジェクトの成功をめざすパートナーでありたいと思っています」
彼女の表情は活き活きとしていた。
彼女の周囲の人は、彼女のことを「穏やかだけど、心は熱い性格」だと言う。その言葉の通り、彼女は、物腰はやわらかく落ち着いた印象を与えるが、内側にはすこやかな野心を宿している。
「母が名付けてくれた『結』という名の由来のとおり、地域の縁結びをすることが私の役目だと思っています。市職員としてまちづくりに長年携わってきた経験を活かし、社会課題に向き合う事業者を広報の力で支えることで、地域活性化の一助になっていきたいです」
「私の取り組みを通じて、地元に誇りを持ち自分らしく幸せに暮らす人、働く人を増やしていきたいと考えています。その先に、住みやすく人と人の絆の深いまちづくり、ひいては地方創生に繋がっていくと信じています」
彼女は満面の笑みで活動の原動力を語った。
「私は、自然があり、温かい人がいて、豊かな暮らしを与えてくれるこのまちが大好きです。私と同じように、『地元が好き!』という人を増やしていきたいです」
彼女の声や表情から、心から地元が好きなことが伝わってきた。
豊能町の農家さんのイベントの手伝いをしている結さん
プロボノ活動を経て、独立
結さんの活動は、市役所勤務のかたわらプロボノ活動として地域団体の情報発信の手伝いや、SNS・デジタル活用に関するセミナーを主催するところから始まった。
プロボノとは社会的、公共的な目的のために、職業上のスキルを活かす社会貢献のためのボランティア活動だ。
「当時はコロナ禍で、対面でのコミュニケーションができなくなったことから、シニアの方を中心に、デジタルに不慣れな方が孤立してしまうのではないかと、強い危機感を感じました」
「緊急事態宣言が発令され、外出が制限された中で、インターネットを使ってワクチン接種の予約ができない方、マイナンバーカードの申請ができない方が市役所にたくさん来庁されたことが、今でも鮮明に記憶に残っています。デジタルが使えずに困っている人はとても多く、市役所にいるのではなくて、地域に出てサポートをする人が必要だと思ったのがきっかけです」
彼女が活動を始めた2022年は、新型コロナウイルスが国内で確認されてから約2年。ワクチンの接種も始まっていたが、1日あたりの感染者が10万人を越えることもあった。
彼女が勤める市役所には、コロナに関連する市民からの問い合わせが押し寄せていたという。当時、広報担当として市民相談窓口やコールセンター業務も担っていた彼女は、市民対応の最前線で、市民生活の中でも混乱や疲弊が起こっていることを肌で感じ取っていた。
コロナ禍は、自身や家族の安全を願うだけで精一杯だった人も多い。そんな中でも彼女の視野は、地域にまで向けられ、困っている人がいたら手を差し伸べた。
「最初は、シニアの方向けにZoomやInstagramの楽しみ方の講座や、自治体のスマホ相談窓口の支援員をしていました。その後、事業者向けにCanvaを使ったデザインの講座なども行いましたね。大切な人とのコミュニケーションを活発にしたり、暮らしがより豊かになるための”デジタルのはじめの一歩”を後押しできたことは嬉しかったです」
彼女はこうしてプロボノ活動を約1年間継続し、地域で求められる支援を続けるとともに、独学でPRプランナーの資格を取得した。
「さまざまなところに足を運びお話を聞く中で、個人も団体も事業者も、みなさん広報活動に頭を悩ませているんだなと感じました。そこで、私のこれまでの経験やスキルが、
「安定」がイメージされる公務員の職を手放し、まだ見ぬ世界へ飛び込む彼女。その勇気を与えてくれたのは、プロボノ時代に地域で出会った人からの言葉だった。
「公務員も素敵な仕事ですが、西楽さんはもっと羽ばたいていける人だと思います」
独立を悩む彼女に対し、情熱を持ち、地域のためにひたむきに働く彼女の姿を見てかけてくれたこの言葉が、未来の扉を開いた。
こうして彼女は、2023年の開業からわずか1年足らずで、北摂エリアを中心にこれまで延べ30社以上を支援してきた。2024年からは広報・PRの専門家としてひょうご産業活性化センターで登録される経営専門家としての活動を始め、とてつもないスピードで進化している。
市役所時代に培った、「伝える前に大切なこと」
結さんは独立前、大阪府内の市役所で約13年間、行政と住民などのステークホルダーとの架け橋として働いていた。
広報部門で、市のファンづくり・ステークホルダーとの信頼関係構築のための情報発信や、市民相談窓口・総合コールセンターの運営などを担当。その後、産業振興部門で、中小事業者やスタートアップの支援などを行った。
彼女が市職員として働く上で大切にしていたことがある。広報(伝える)の前に、広聴。つまり“聴く”ことだ。
「相談窓口や総合コールセンターでは、住民からのご相談や、市へのご要望を伺います。中には市役所側の人間には耳の痛い話もあり、場合によっては1時間、2時間と長丁場の対応が必要になることもあります。同じ職員の中には、“説明する”ことを優先し“聴く”ことを重要視していない職員もいました。でも私は、まずは相手の課題解決のために真摯に向き合っていることを示し、信頼関係を構築することが大切だと考え、丁寧に耳を傾けて“聴く”ことを心掛けていました」
その姿勢の裏にはどんな想いがあったのだろうか。
「市役所を始めどんな組織も、自分たちの考えだけでは目的を果たすことはできません。ステークホルダーとのかかわりを通じて自浄作用を生み、理解され、応援される存在となっていきます。そのような周囲との強い絆をつくるためのコミュニケーションは、一方的な発信では成り立ちません。『みなさんの意見は宝物』だと捉えてブラッシュアップしていくことが大切だと考えていました。なので、たとえ厳しい声であっても、貴重なご意見だと受け止めて、それを未来に活かすよう心がけていました」
彼女の誠実で凛とした姿は住民だけでなく、ともに働く上司や同僚の心も掴んだ。周囲を巻き込んで進むべき方向にさりげなくリードする姿は評価され、同期の中でも早くに係長となり、チームマネジメントを任された。
当時の上司からは、「私から何も言うことはないです。そのまま、進んでくださいね」と、温かいエールをもらったという。
「係長になってからも、率先して住民の声を聴くことを続けていました。市役所内の広報研修も担当していたのですが、その中でも広聴の重要性は繰り返し伝えていました。それを理解して行動に移してもらうのはなかなか難しかったですけどね……(笑)」
そもそも、まちづくりの主役は住民だ。彼女は、その住民の声を市長の代わりに聴いているという自覚と誇りを持って仕事をしていた。
「その後に取り組んだPRプランナーの学びの中でも広聴の重要性が説かれていて、私が大切にしてきたことは間違っていなかったと確信が持てました。市役所で聴く姿勢を身に着けたことは今の仕事にも活きています。職業人として手本になる上司・先輩にも恵まれ、本当に貴重な経験を積ませてもらったと感じています」
クライアントの1番のファンになり、伴走する
結さんは現在の仕事でも、聴くことを徹底している。
「まずクライアントの事業への想いやその人らしさにつながる原点のストーリーなどを丁寧に聴きとり、自分が代弁できるくらいまで落とし込んでいきます」
「そうすると、『この人の素敵さをみんなに知ってもらいたい』という想いが自然に溢れてくるんです。仕事だからではなく、純粋に楽しみながらやらせてもらっています。クライアントは素敵な方ばかりで、私が1番のファンであり、理解者であることを自負しています」
彼女は、クライアントの想いはもちろん、クライアントのお客様や関係各所の声にも積極的に耳を傾けていく。
「クラインアントのみなさんには『広報活動は恋愛に似ているんですよ』とよく伝えています。クライアントが自分自身と深く向き合って、自分の考えや“らしさ”を伝えることは大切です」
「でも、それだけでは不十分で、クライアントのお客様、つまり結ばれたい相手が求めていることや興味、関心に応えていくことも欠かせません。絶えずお客様と心地よいコミュニケーションをとりながら、その声を活かして進んでいくことで、相手との深い絆が築けるんです」
「結ばれたい相手との心地よいコミュニケーションをサポートして、クライアントの理想とする未来へ導いていくのが、縁結び役である私の仕事ですね」
彼女の強みは、ヒト、モノ、コトの良さや“らしさ”を見つける感性の高さと、課題解決へ向かうためのコミュニケーション施策の提案力だ。
大阪府豊能町を中心に、主にシニア向けに個別トレーニングなどの健康サポートや福祉タクシーなどの移動支援事業を個人で展開されている理学療法士の方のトータルブランディングでは、ブランディング戦略の立案から、事務所の看板や車両マグネットシート、チラシ、サービスを分かりやすく伝えるPR映像制作を手掛けた。
制作物からは、理学療法士の方の人柄の良さがにじみ出ている。
「クライアントが事業を通して達成したい「志」やそのためのコンセプトを具体化し、商品や広報物、店舗の雰囲気からスタッフ様の振る舞いまで、クライアントのお客様が受け取る体験すべてを、与えたいイメージで統一していくのがブランディングです」
彼女はプロジェクトに応じてカメラマンやイメージコンサルタント、Webデザイナーなどとチームを組み、制作物の質を高めるために最善を尽くす。
彼女の仕事は単なる制作代行ではない。クライアントが目標に近づくための戦略家かつ実行役として、クライアントに伴走しながら、理想のお客様との縁を結んでいく。その人らしさと結ばれたい相手が求めるものとの着地点を見つけ、その人にしかない価値を磨き上げる。
看護・介護サービスの提供を行う会社のサポートをした際には、「周知期間3か月で新規開業施設の地域への認知を広める」という難題にも取り組んだ。彼女は社外PRマネージャーとして、広報戦略、ブランデイング戦略の立案、戦略の実行と進捗管理を中心となって行った。
短期間かつ広報に回せる予算は限られていた。そこで彼女が目をつけたのが0円でできるSNSでのPR。既存の自社アカウントをブラッシュアップし、社長の事業にかける想いや、ビジネス誕生の背景を発信し、多くのファンを獲得していく。
施設のお披露目イベントに向けて、何から手を付ければいいかと右往左往するクライアントへ、市職員時代に市長が出席する式典などの運営を行ってきた経験を踏まえ、準備物や段取り、来賓との調整、プレスリリースなどの的確な助言を行い、施設開所に向けて走り抜けた。チームをリードする力も、彼女の強みのひとつだ。
そうして3ヶ月の伴走支援の集大成であるお披露目イベント当日には、SNS運用などの施策や綿密なイベントへの準備が功を奏し、たくさんのお祝いのお花やメッセージ、来賓・来客、事業実施にあたり連携するパートナーが集まり、成功を収めた。
彼女の取り組みの根底には「地域の人が協力してそれぞれの得意を発揮すれば、すごいことができる。互いに支え合いながらみんなでより良く、豊かになっていこう!」という愛があふれている。
そんな彼女のもとには、同じように地域のために愛と志を持って、ビジネスを通じて貢献しようとする人が自然と集まっている。
西楽 結(Nishiraku Yui)
PRプランナー / MUSUBI LAB.代表
市役所での広報部門マネージャーなどを経て、2023年にPRプランナーとして独立。関西・北摂エリアを中心に、主に地方企業に向けたPR・ブランディングのコンサルティング・伴走支援を行う。2024年からひょうご産業活性化センターの経営専門家としても活動中。
【Information】MUSUBI LAB. 公式HP / Instagram
結さんのサービス詳細(PRの伴⾛⽀援、ブランディング・広報物制作、撮影、ライティング、広報・PR講座など)はこちら
活動の様子はInstagramをチェック!
これまでのキャリアや自分の得意を活かし活躍する彼女だが、意外にも自分を認めて生きられるようになったのはここ最近だと語りました。
後編では、西楽結さんの生い立ちや、現在の活動の原点となった大学時代の話、市職員時代の葛藤、母とのエピソード、今後のビジョンなどお伺いしました。後編もどうぞお楽しみください。
ここまでお読みいただきまして、ありがとうございました。(執筆者:江川ともよ)
\ご縁を繋ぐきっかけに/
あなたの魅力を伝え、想いを大切に届けるインタビューライティング
監査法人・コンサルティングファームのシェアードサービス会社の人事など会社員経験12年を経て、フリーのライターへ。1000件以上の対話経験を活かし、インタビューライターの活動を開始。
ヨガ講師、2児の母としての顔も持つ。
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